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王女様の不埒な暴走
第2章 姫は運命に抗らう



 膠着してしまった空気を一掃するような、パンと鋭い音が隣から響く。姉が煽いでいた扇を閉じたのだ。


「はい、そこまで」


 厳しい顔つきで言った姉は、不意に嫣然とした笑みをスチュワートに向ける。女から見ても姉の笑みは艶っぽく、スチュワートも頬を僅かに染めている。


「ねぇ、スチュワート?」


「は、はい。なんでしょう、義姉上様」


「リンゼイの留学はもう決定したの。王さまのお許しだって出ているし、ラインハルトへ王太子であるお兄さまからの使者を送り、書簡のやり取りで準備を進めているわ」


「……」


「それを今さら取りやめれば、お兄さまの顔に泥を塗り、両国の関係に傷を付けると、あなたはそう思わない?」


 姉は穏やかな口調ながら、スチュワートを猛烈に非難する。仮とは言え、婚約者に何も言わずに決めてしまったリンゼイにも非はある。


 だからこそ強気に出れなかったわけだが、姉はそこに一切触れずにやり込めるやり方は、姉らしいと言えば姉らしい。


「で、ですが義姉上様! 俺の言い分も少しは……」


「仮にもあなたは王族になろうと言うのでしょ? だったらあなたももう少し見識を深めなさい。今あなたがすべきことはリンゼイを止めること? 違うでしょう。さっきリンゼイに慰問どうこう言っていたけれど、スチュワートこそ領民のために奔走すべき時じゃなくて? こんなところにいないで領地へ帰り、伯爵の手助けに専念なさい」


 姉は手に持つ扇をスチュワートの口許にピタリと当てて黙らせ、毅然と言い放ち、ついに彼を追い返してしまった。







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