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王女様の不埒な暴走
第4章 執事の噂と王女様の暴走




 木々の葉が森に深い闇を落とす。だが葉の合間に月が僅かな光を射していた。


 呼吸の音でさえ響いてしまうほど静かな森に、キャンディスと長躯の男──見紛うはずもないジョシュアの姿があった。


(ああ……)


 違っていて欲しかった望みは、こうも簡単に打ち砕かれる。


 リンゼイの顔は悲痛に歪み、心臓が激しく痙攣したように打ち、浅い呼吸を繰り返す口許は両手で覆っている。


「──もう、こうして会うのはやめましょう」


 ジョシュアの低い声音がキャンディスに告げる。


「どう……してですか?」


「あなたはもう結婚される身です。良からぬ噂はあなたのためになりません」


「そんなこと……どうでもいいです。ようやくこうして会えるようになったのに……」


「キャンディス様」


「そんな風に呼ばないでください! だって私はあなたの……」


 キャンディスもまた悲痛な表情をしている。言葉に詰まったのは泣いているからだった。頬を伝う涙が月明かりに照らされ、ハラハラと零れている。


「キャンディス様。今日はお祝いを申し上げるため、最後に会っておきたくて来たんです。泣かないでください」


 ジョシュアの手袋を嵌めた手が、彼女の髪を優しく滑っていく。






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