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王女様の不埒な暴走
第4章 執事の噂と王女様の暴走




 薄闇に包まれる屋外はリンゼイの心の内とは裏腹に、皮肉にも美しい円を描く月と眩い星々が空を覆い、馬車の傍に立つ人物を浮き彫りにさせる。


 今ごろはキャンディスと逢瀬のひと時を愉しんでいると思っていたジョシュアだ。


「な……、ど……」


 思わず歩みを止め、彼がこの場にいるのが信じられず、疑問の言葉の端を口走る。


「王女おひとりで帰すわけにまいりません。ジョシュアをつけますので、道中お気をつけて」


「い、いいえ! ひとりで平気です。ジョシュアさんは殿下の護衛でしょう?」


「私ひとりならどうとでもなります。それにジョシュアは今、王女の執事でもあるんです。……ジョシュア、王女を頼むぞ」


 食い下がろうとするリンゼイを制止して、レオナルドはジョシュアに言い付ける。


 この場から──ジョシュアから逃げ出したかったのに。あれ程恋い焦がれ、一秒たりとも彼と過ごす時間を無駄にしたくないと、切に願っていた。けれど今だけ……今だけは、ジョシュアと一緒にいたくなかった。


 泣き腫らした顔だって、ジョシュアには見られたくなかった。


 だが食い下がり、説得しようとしたところで無駄なのは承知している。彼と同じ馬車に乗り込むほかないのだ。





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