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理想と偽装の向こう側
第12章 板ばさみ
「そんな…いきなり…仕事もあるし…即答は出来ないよ…」


それより、こんな気持ちで絶対に無理だよ…。


「分かってるよ。だから考えて」


…考える余地…ないと思うけど。


「分かった…」


私が思い詰めてると嘉之は左手を助手席に着け、顔を近付けてきた。


「香織…」


「えっ…っ!」


嘉之の唇が私に重なり、そっと触れる。


凄く…優しいキス…。


驚いて眼を見開いてしまったが、唇を少し離し嘉之はまた、静かに重ねて何度もそんなキスを繰り返してきた。



唇が微かに触れる度に、胸な鈍い痛みが走る。


以前だったら嬉しくてクラクラしてただろうけど、今は罪悪感に責めたてられる思いで、苦しくて両手でスカートを強く握りしめたら、嘉之の右手が私の左手に重なり包み込む。


端から見たら想いを寄せあって見えるだろうけど、身体は嘉之と繋がりながら、心は小田切さんに向かってしまう。

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