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隠匿シリーズ☆番外編
第3章 ご主人様の裏の顔

──村は荒れた。
耕す土地はあり、大地を潤す雨や川はあれども、人が一人、二人と減っていく。
力尽き、息絶える者。逃げ出す者。その逃げ出す者を領主は見逃さず、見張らせる兵に捕らえさせ、それらは村に戻ってこない。
豊かな実りをつけていた田畑はいつしか荒れ果て、雑草が茂るようになり。
生きる気力はとうの昔に置き去りにされ。
それでもキッシュは生き延びていた。両親の無念を胸に、いつかこの手で晴らすため。
母を埋葬する金もなく、彼女が大切にしていた花が咲く庭に亡骸を埋め。枯らさぬように川の水を毎日運んでは水をやり。
思い出を失えば、恨みも忘れてしまうのではとの一念と、せめて母が心やすらかに眠れるようにしたくて、ふらつきながらも水をやるのだけはやめはしなかった。
カビの生えたパンを食べ、草の根をかじり。ときには墓を暴いて金銭になるものを掘り起こし。
行き倒れて死する者からさえも己が生きるため、金を奪った。
人の尊厳などない世の中で罪悪感など生まれるはずもなく。
しかし、けれど。時おり無性に泣きたくなるのはなぜか。
唇を噛み、歯を食いしばって生きているのが馬鹿らしくもなり。
いっそのこと両親を追おうか──と考え始める頃には、キッシュの身体も限界に達しようとしていた。
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