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隠匿シリーズ☆番外編
第3章 ご主人様の裏の顔

陽も昇りきらぬ朝方。キッシュは日課の水汲みに出た。
空腹と疲労で足はふらつき、水を汲んでからは両手にぶら下がる桶が重くてさらにぐらぐらと身体が不安定に揺れる。
キッシュはいよいよ命の危機を感じたが、どうでもよかった。ただ最後に花に水をあげたい。母の眠るあの庭の花に──。
だが家の庭に踏み入れた途端、急激に意識が遠退く感覚に襲われた。
地面に身体を投げ打ち、せっかく汲んできた水が土に吸い込まれていく。
──最後の望みすら無情にも奪われるのか……。
キッシュの瞳から一筋の涙が流れ、瞼を閉じかけたときだった。
「おい、しっかりしろ! 聴こえるか!?」
そんな声がし、キッシュの身体が突然浮いた。
ゆらゆらと揺られ、何が起こっているか考えられる意識もなく。それを呼び戻したのは、どこかに横たえられ、鼻先を擽る芳ばしい匂い──パンの匂いだった。
キッシュはそのパンを認識するより前に奪い取り、頬張った。飢えた獣のよう、一心不乱に。
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