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仔猫と狼
第11章 知りたくない
メールをもらったあの後、俺はゴミ箱に入らなかったタバコの箱をすて、どこか軽くなった足取りで家に帰った。
部屋の中は、さっきまでいたあいつの気配が残っていた。
いつものように乱れたベッドシーツ、そのしたには俺が引き裂いたあいつのシャツが落ちていた。
あいつ忘れていったのか…。
それを拾うと残っているはずのないあいつの温もりと香りを感じた。
変態かよ…。
手に持ったシャツはゴミ箱に投げ捨て、温かいシャワーを浴びた。
風呂から上がり裸のままベッドに腰掛ける。
そのまま部屋に残るあいつの気配とともに俺は目を閉じた。
山田に言われた彼女を落とせ。
溢れるくらいの声優志望の中で売れる声優はほんと一握りだ。
事務所も売れない人間より売れる人間の方がいいに決まっている。
それは当たり前だ。
なのにそんな世界にあいつを落としこむことにかすかな罪悪感を感じている。
あまつさえ守ってやりたいなんて矛盾した考えがよぎる。
これは…。
いや…考えるのはやめよう。
あの感情を抱くことはやめたのだから…。