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仔猫と狼
第15章 足音
私が撮り終わったあとの収録は長かったはずなのに、あっという間に感じられた。
みなさんの声優としての技術を勉強しようと用意したノートは真っ白のままだった。
せっかくの機会だったのになにも残せていないようで、悔しくなった。
みなさんがお疲れ様と声を掛け合ったいる中、監督が私の隣に座ってきた。
「片岡ちゃん。」
「あ、お疲れ様です。」
「うん、お疲れ。」
そう優しく声をかけてくれた。
そして、私の手元にある真っ白なノートに視線を向けた。
「ノート真っ白だね。」
その指摘に悔しさよりも申し訳なさがこみ上げてきて、またしたを向いてしまう。
「はい。」
そんな私の様子は気にせず監督は言葉を続けた。
「なにも残せなかったかな。」
「…はい。」
「それは、ノートになにもメモしなかったから?」
「…はい…。」