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仔猫と狼
第15章 足音
「本当に…?」
「…。」
「本当に君の中にはなにも残らなかった?」
下をむいたままだった彼女から私の言っている意味がよく分からないという視線を向けられた。
その純粋な視点があるのは、若い証拠である。
メモをすることがすべてのような教育が浸透してから、メモを取っていない=なにも学んでいない、という思考になる子たちが増えた。
もちろん、メモすることだって大切なことの一つである。
けれどそれがすべてではない。
特に演技を生業にしている君達は、メモに言葉で記すよりももっと大切なものがあるはずなんだ。
「君は、メモを取ることすら忘れるほど彼らの演技に魅入られていたね。」
「…!」
収録中の自分を僕に確認されていたことに驚いた様子でこちらを見続けている。
ふと視線を上げると鳥居君も僕の言葉を聞いていた。
「魅入るってことは、その魅力に気が付いているってことだよ。言葉なんかじゃ表せない、彼らの魅力を君は探っていたんだ。」
「探る…。でも、見入っているだけじゃファンのままなのでは…。」
再び口を開いてくれた君は素朴な疑問を向けてくれた。
「もちろん、魅入るだけじゃただのファンだよ。でも、彼らの魅力を理解した後は君次第だ。君がその魅力を身につけるために努力をすることができれば、今日見たものは確かに君の中で残ったということになるんだよ。」