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電池切れ
第8章 50歳・・現実・・それでも

うつむいていた悟はふと顔をあげ、
目の前に飾ってあったおもちゃの車を手に取っていじりだした。
裏にひっくり返すと、スイッチがあることに気づき、
「マスター、これ、動くの?」
車を掲げてマスターに声をかけた。
「あ、動きますよ。
ちょっと古いけど電池式で
一応まだ現役です。どうぞ」
動かしてみて、と手で合図するマスターに私は、
2杯目にギムレットを、と注文した。
悟がスイッチをオンにして、
カウンターの上に車をスタンバイさせる。
その様子を黙って見つめた。
車は・・
動かない。
あれ・・?動かないよ?
私の前にギムレットを置くマスターに、
「動かないよ、これ」
と残念そうな表情を見せる悟。
「え?ホントすか?あ~・・電池切れかな」
そう言うと、店の奥の食器棚の引き出しをかき回し始めた。
きっと新しい乾電池を探しているのかも。
その様子を遠目に眺めていると、つぶやくような
悟の声が聞こえた。
「・・オレと同じか・・」

