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~大人のための官能童話集~
第3章 二幕‥赤ずきんちゃん
「…………」
青年は答えない。
そのまま沈黙の時間だけが流れ、母親はじっと青年の反応を待っていた。
そんな母親の様子を見て取った青年は、ぽつりと一言。
「……ニーナが悲しむと思ったから。理由はそれだけだ」
「あ……」
言葉少なにそれだけを伝えると、今度こそ青年は窓枠を飛び越えて姿を消した。
タッタッタッ……
微かに聞こえる足音は、どうやら森の方面へと向かっているようだ。
(もしかして、ニーナを……?)
暗い地の底まで落ちていた希望が、母親の中で浮上してくる。
我ながら浅ましいと母親は自らを嘲笑しながらも、願わずにはいられない。
「ニーナ……」
大切に育ててきた、たった一人の娘。
出来うるならば傷つかず、無事に帰ってきて欲しい。
もう一度娘の笑顔を、この目で見たい。
母親は切実に娘の無事を願った。
◆ ◆ ◆
「はぁ…はぁ…はあ…っ」
走って、走って、とにかく走る。
歩き慣れた道なき道を、鬱蒼と生い茂る森の中を。
青年はただひたすらに駆けていた。