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バックヤードの誘惑
第5章 はじけた・・



翌日、普段通りの表情で顔を合わせた和樹だったが、

ほんの一瞬だがいつもと違う眼差しを見たような気がした。

でもその後はいつもと変わらぬ和樹に、

自分の考え過ぎなのか、と自惚れを反省した。





6時を過ぎ、もう一人のパートの江原美香が帰っていく。

2人きりの時間にもすっかり慣れた。

あの日以来緊張がはびこる1時間を過ごしてきたが、

美佐江の中ではじけてからはもうそんな苦痛は感じなくなった。


それになんだか今日は客の出入りが多い。

2人きりになる瞬間は数えるくらいしかなく、

美佐江1人じゃ手が足りない時さえある。

その忙しさが、朝感じた和樹の眼差しの事をすっかり忘れさせていた。



閉店時間ギリギリまで粘っていた客を送り出してから

シャッターを下ろす。



「この時間にこんなに売れるなんて、珍しいですね」



売り上げを計算している和樹も顔をあげ、



「ほんとだね。もしかして・・

 山城肉店が半年に一度の特売やってるから

 人出が多くて、それでうちにも流れてきたのかな」



ごく普通の会話をしている時は、年齢を感じさせないかわいらしい男、

なのに、ああいうことをするときはどうして

ねちっこくてイヤラシイのだろう。

でもそのギャップにすっかりやられている自分を、

美佐江はよくわかっていた。
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