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若社長と秘書子の攻防
第1章 ファーストラウンド



「待て。話はまだある」


 一礼して立ち去ろうとすれば引き止められた。


 今度こそあの話をされるのでは? と引き攣りそうになる口許の筋肉を、なんとか定位置に留める。


「今日、退社後に陸奥屋さんに伺う。相川も同行しなさい」


「……は? ですが先日陸奥屋さんには挨拶に伺ったばかりですよね?」


「それがどうした? 陸奥屋さんとは先代の頃からの付き合いだ。閉店となる今日、最後のご挨拶に行くのは当然じゃないか?」


「……かしこまりました」


 今度こそ一礼して社長室から出て秘書室に戻った。先輩方は私を認め、捨てられた仔犬のように大人しくなる。先程の灸が効いているのだろう。


 大人しい分には困らず、言い付けられた資料に着手してはみるがどうも集中出来ない。


『陸奥屋百貨店』と『夏祭り』という2つのワードが、重くのしかかってるからだ。


 その陸奥屋百貨店というのは地域から愛されてきた百貨店で、閉店する今日、屋上で夏祭りを催している。


 かく言う私も、実家がわりと近所にあることもあり、子供の頃には両親と一緒に行ったものだ。


 だけども12年前のあの日以来。百貨店に足を運ぶのは、最小限に留めている。





 瞼を閉じれば鮮明に思い出す、あの夏の日のことを、私は久々に思い出してしまった。








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