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蝶は愛されて夢を見る~私の最愛へ~
第32章 《巻の四―散(ちる)紅葉(もみじ)―》
母の侍医は、出産が生命取りになる危険性を指摘し、父もまた、無理をする必要はないと母を諭した。が、母は折角宿った生命を流すことはできないと言い張り、泉水を生んだのだ。
しかし、ただ美しい女人であったという印象を除けば、その容貌さえ定かには憶えていない泉水にとって、母が遠い存在であることに変わりはない。十八年間ずっと一緒に過ごしてきた乳母時橋の方がよほど馴染み深く、〝母〟と呼べるような気がする。