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蝶は愛されて夢を見る~私の最愛へ~
第32章 《巻の四―散(ちる)紅葉(もみじ)―》
泉水は、母の唯一の形見であるこの懐(ふところ)鏡(かがみ)をいつも懐中に忍ばせている。この小さな、たった一つの鏡が自分と顔さえろくに憶えてはおらぬ母を結びつけるよすがであった。鴇色(ときいろ)の美しい巾着から鏡を取り出し、そっと覗き込んでみる。鏡の中から、黒眼がちの大きな眼の娘がこちらを見ていた。
泉水は自分をとりたてて美しいとも綺麗だとも思ったことがない。父源太夫もなかなかの男ぶりではあるが、泉水は父よりも、むしろ亡くなった母に似ていると父は言っていた。
泉水は自分をとりたてて美しいとも綺麗だとも思ったことがない。父源太夫もなかなかの男ぶりではあるが、泉水は父よりも、むしろ亡くなった母に似ていると父は言っていた。