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蝶は愛されて夢を見る~私の最愛へ~
第32章 《巻の四―散(ちる)紅葉(もみじ)―》
しかし、父は母をこよなく愛し、母もまた、父を一途に慕った。両親の仲睦まじさは家臣たちの間でも評判であったと聞く。
父が母の死後、長らく後添えを娶ろうとしなかったのは、泉水のためを思ってのことはむろんだけれど、やはり、最愛の女人を忘れがたかったためかもしれない。そういえば、槇野家に古くから仕える老臣―榊原家に嫁した泉水に付き従ってきた坂井琢馬は、父の二度めの妻深雪の方の容貌が在りし日の母貴美子にどことなく似ていると洩らしたことがある。
父が母の死後、長らく後添えを娶ろうとしなかったのは、泉水のためを思ってのことはむろんだけれど、やはり、最愛の女人を忘れがたかったためかもしれない。そういえば、槇野家に古くから仕える老臣―榊原家に嫁した泉水に付き従ってきた坂井琢馬は、父の二度めの妻深雪の方の容貌が在りし日の母貴美子にどことなく似ていると洩らしたことがある。