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蝶は愛されて夢を見る~私の最愛へ~
第36章 《巻の参―杏子の樹の傍で―》
「お久しうございます、姫さま」
 かつて榊原の屋敷にいた頃は〝お方さま〟と呼んでいた時橋は、今は昔のように〝姫さま〟と呼ぶ。その優しさも心に滲みた。
「時橋ッ!」
 泉水が駆け出す。
「おい、姐さん。走るなよ、走るなってば」
 夢五郎の慌てた声が追いかけてくるが、泉水は頓着せず走った。そのままの勢いで時橋の腕の中に飛び込む。
「逢いたかった、時橋、逢いたかった」
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