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蝶は愛されて夢を見る~私の最愛へ~
第20章 《巻の弐―予期せぬ客人―》
尾張大納言徳川光利―、不思議な男であったが、なかなかの器を感じさせる人物でもあった。
―奥方のような妻を得て、榊原どのは果報者だな。
この光利が去り際に残した科白の意味を泉水はついに知ることはなかったが、光利は藩主になった年に先立つこと一年前、正室を亡くしている。この御簾中は京の五摂家の一つ一条家から迎えた高貴な姫君であったが、気位が高く、光利とは打ち解け合えぬままに二十一歳の若さで病死していた。