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そのキスの代償は……
第7章 その日
「やっぱり、そんなことしてもらうなんて…」


6枚目の試着を終えてあの人の前に出た私は、

どうしようもない羞恥心と戸惑いを隠せなくなり、

せっかく蕩けるような微笑を向けてくれるあの人に…

そんな下世話なことを言ってしまった。


あの人は切なげに顔を歪めたが、思い出したように口角を少し上げ、

こちらに向かって近づいてくる。

正面にスッと立ち止まり、私の耳元に唇だけを寄せ、

私にだけ聞こえるような声でそっと囁いた。


「なぁ~、男が女に服を贈るのはなんでか知ってるか?」

煙草とあの人の香りが、私の鼻孔をくすぐる。

あの人はもう一歩踏み出して私の真横に立ち、

店員が来店の客に気を取られた隙に、耳たぶをギュッと噛んだ。

痛みに全身がブルっと震え、浮ついて欲情に囚われそうになる意識を

はっきりさせるため首を1度だけブンと振った。


正面を見据えると、あの人の右眉が上がり唇が歪んだ。

そして、もう一度私の耳を侵す…

「お楽しみのためだ。もちろん俺が脱がすための…」

そのセリフを吐き終え、試着したドレスを着る私からゆっくりと後ずさり、

目を細めた顔を下から上へ…

強い瞳で服の下まで見透かすように嘗め回す。


手すら触れられていないのに、

それでも全身撫でまわされる感覚に囚われ、

下腹部にじわじわと溢れる何かを感じ、躰が熱を帯び始めた。
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