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そのキスの代償は……
第1章 プロローグ
やっと動けるようになってベッドの頭上に携帯を見つけ、

それを取ろうと手を伸ばすと何かに触れる。

紙のようなものを指でつまみ上げて、仰ぎ見た。

走り書きのようなもので…

見知った線の太い右側が少し上がる力強い文字だった。


『シャワー浴びたら帰れ。鍵はポスト。』

名前のないメモ。

それは、あの人が仕事の時に必要な段取りを伝える時のメモと同じ。

シンプルで必要最低限の事しか書かない…


辺りを見回しても、この家はあの人のもののはずなのに全く気配がない。

カギをかけろということは、すでにどこかに出かけたのだろうか…

まるで昨夜のことが全て私の妄想で、

ただ酔ってここに寝ているような幻に囚われそうになる。

だが下腹部に感じる少し刺すような痛みと、

乳房の真ん中に刻み込まれた紅い痕は、

間違いなく昨夜の情事がリアルなものだと主張していた…


横になったまま上目使いに視線を彷徨わせると、

携帯のあった少し上に鍵が見えた。


それから私はあちこちに散らばった服と下着を掻き集めた。

それは昨夜の情熱的な情交の証。

結局あの人に言われた通り、シャワーを浴びて鍵をポストに返し、

携帯で呼んだタクシーで家に帰った。
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