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そのキスの代償は……
第1章 プロローグ
あんなドラマチックな出来事があった翌週。

感じたことのない快感に別人になったような気がしても、

いつもと変わらない月曜日が始まり、私はいつものように出勤する。


「おはようございます」

ドキドキする心臓を無理やりになだめながら、普通を装って、

トレーに乗せたコーヒーをデスクまで持って行く。

別に強制されてはいないけど、私は毎朝、隣とうちの課の

男性社員が出勤したら、好みの飲み物を用意する。

うちは1課で隣りは2課。


人数の都合分けられているだけで、同じ仕事をする同志だ。

それで、朝食を頬張るもの。お茶をすするもの。


そして…

あの人は私の入れたコーヒーを片手に持ち、

メールチェックをするのが日課だった。


「相良君おはよう」

目の前に微かに震えながらコーヒーのカップを置いても、

あの人の視線は今朝も画面に向いたままで、

気のない挨拶を返すだけだった。


一昨夜…

その掌が、その指が、その唇が私を弄び、探り、

見たことのない高みに連れて行ったのに…


鼻腔に、コーヒーと微かなフレグランスの匂いを感じとる。

シーツに残っていたものと同じはず…

それでも、目の前には何も変わらないあの人。


横顔を一瞬だけ恨めしい目で睨み、邪な想いをぐっと飲み込んで、

トレーを返しに給湯室に向かった。
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