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そのキスの代償は……
第7章 その日
「佐伯…」

「はい」

「あなたもいらっしゃい」

「…はい。かしこまりました」


さっきから女の斜め後ろにたたずんでいた男は、言葉のままに付き従う。

それからあの人は手を放してからこちらに振り向き、

目で私に何か合図をしてゆっくりと店に入った。


私はその目が、とりあえずついてきてくれという懇願にも、

行くしかないという諦めにも見え、仕方なく足を前に出した。


この女は誰?

大人の男に向かってあんな横柄な態度はなんでなのだろう?

嫌な予感しかしない。

でも出会ってしまった以上、もう行くしかない…


それから私たちは店内の奥まった場所にあるテーブルに招かれ

向い合せに座る。気楽に話せるような雰囲気ではない。

その場の空気は…

最悪に重かった。


「遠慮せず、好きの物を頼んで…」

女があの人にメニューを渡しながら向ける流し目は、甘ったるかったが、

その奥にナイフのような鋭さを含んでいた。

女の視線が一瞬だけこちらにも向けられて…

私の心をグサリとえぐった。


隣に座るあの人は、メニューを渡されても心ここに非ずといった感じで、

さっきとは違い表情が硬かった。


「あら、久々なのにね。

その態度はあなたこそ、あまりにも失礼じゃないかしら?

ねぇ~、旦那様」
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