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そのキスの代償は……
第7章 その日
隣で静かに座っていた男が、ゆっくりと立ち上がり

女の両肩に手を添えながらあたりを見回す。


「お嬢様、もうその辺で…」

そっと耳元に顔を寄せ、呟くように説き伏せる。

それに応じたからなのか、女はいからせていた肩を下げた。


「わかったわ、佐伯…

ごめんなさい」

「いいえ。お嬢様らしくありませんよ」

首を振りながら優しい微笑みを投げかけ、女を座らせる。

その間もあの人は、ただ俯いたまま私の方に膝を向けて座り、

躰を硬くして嵐が去るのを待っているようだった。


この夫婦と男の関係は…

この何とも言えない空気感は一体何なんだろう…

3人の間に横たわる気持ちの悪い違和感が、心底私を怯えさせた。


その時、タイミングをうかがっていたのか、

ギャルソンがコーヒーが3つ、テーブルに持ってきた。

それをどこにと視線を彷徨わせて迷っていると、

男がこちらにというふうに手を伸ばす。


まずはもちろんそうだろう…

女の前に。

次に迷わず隙のない動きで…

あの人の前に。


そして最後のコーヒーを手に取った。

ギャルソンは役目を終えたのをほっとしたかのように

テーブルに紙を置き歩き去っていった。

男はその紙を左手で自分の元に引き寄せながら…

右手に持っていたコーヒーを自分の目の前に…

そっと置いた。
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