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そのキスの代償は……
第1章 プロローグ
相良ひな 34歳。


あの日、私は自ら望んで全てを呑んで…

あの人に抱かれた。

でも、それは愛情や何かしらの感情が全く伴わない、

ただお互いを欲望の吐け口にしただけのことのはずだった…


あの日までは…

あの時までは…

一度でも結ばれたらもうそれで諦めようと思っていた。

そう思おうとやっきになっていた。

しかし、一度触れてしまうと…

触れられてしまうと…

どうしても次を期待してしまう。


やっとあのしがらみから解放されて…

やっとのことでこの自由を手に入れて…

女としての悦びを再び知ってしまった私にとって、

次がないことは、拷問に等しい。


また今までのように修道女のような生活ができるのか?

清貧を貫いて、娘たちのためだけに生きていけるのか?


もちろん娘は大事だ。それは私が母親として、人間として生きていく上で

生き甲斐であり、絶対必要不可欠な存在だ。

でも私は、母であり、人間である以前に女でもある。

娘の成長を楽しみにするだけで、生きつづけられるのかというと…

そんなの無理だ。絶対に…

イヤだ。


再び思い出してしまった蜜の味。あの快感がもう一度欲しい。

あの快感をくれる…

あの人がまた欲しい。
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