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そのキスの代償は……
第8章 その夜
あぁ~、

なんでこんな時に…

視界が床に向かって急激に傾き始める。


あの人が選んだドレスに合わせて見繕われたヒールの高い靴。

私には不似合いの履き慣れないそれにやっと足を入れて立ち、

あの人に手を取られて歩くだけでもやっとのことだったのに…

逃げるように店を小走りで駆け抜けた足は、

もう限界だったのかも知れない…


入り口にある敷物の端に爪先が引っかかった瞬間、

身体がふわっと宙に浮き、

一気にバランスを崩して転びそうになる。


それに気が付いたあの人は、立ち止まって振り向き、

繋いでいた片方の手を力強く引っ張って、自分の方に引き寄せた。


その暖かい胸へ向かって、ただ重力に身を任せるしかないまま、

ゆっくりとスローモーションで飛び込んでいく。


転ばずに受け止めてもらえる安心感以上に、ここがどういうところで、

こんなことをしてはいけない場所だということが脳裏をよぎる…


だめ…

それはまるで、いけないことが分かっているのに

あの人に堕ちていく今の私のようで…


この関係の行きつく先は私が望むと望まざるに関わらず、

この重力に逆らえない今の私のように、

すでに決まってしまっているのだろうか?
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