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そのキスの代償は……
第8章 その夜
近づいてくる温もりを意識していると、

いつものあの匂いが私の鼻腔に飛び込んできた。

煙草とフレグランスの混じった、ちょっと苦い感じのそれは

こんなときでもこの躰に合図だと告げてしまう…

この薫りは…

私の淫らな心のスイッチをいとも簡単に押し込んでしまう…


数秒後、お互いが勢いよくぶつかると、

激しくぶつかる躰を、いとも簡単に受け止めるあの人が見えた。

その熱が油に弾かれた水のように躰の隅々まで一気に広がっていく。


ここがどんな場所で、

自分がどんな立場なのかなんて…

一瞬で忘れてしまいそうになる。


それと同時に胸の中には、愛おしさ、恥ずかしさ、辛さ、悔しさ…

喜怒哀楽がごちゃ混ぜになって、沸騰した後凍りついたような

わけのわからない感情が、湧き上がり溢れ出てしまいそうになる…


口元が…

躰が…

わなわなと震えて止められない。


飛び込んだこの胸に強くしがみついて、

絶叫したくなる衝動を、何とか喉もとで辛うじて留め、

決壊寸前の涙と共に堪える。

気がふれてしまいそう…


ただただ、あの人に…

一瞬でもいいから、強く抱きしめてほしかった…
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