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そのキスの代償は……
第8章 その夜
そんな私をあの人は、いつの間に後ろから背中を優しく押して、

エレベーターホールまで導いていた。

心ここに非ずといった感じのまま、エレベーターに乗せられたらしく、

あのふわふわとした上っていく気持ち悪い感覚に襲われ、

今自分がどこにいるのか気が付く。

視界には見えないけど、少し離れたところにあの人の気配がした。

目の前には街の明かりが小さく煌めいていている。


密室になるとすぐ、

「すまない…」

背中から低く響くその声が謝罪の言葉を囁く。

そんなことを言わせたい訳じゃない。あの人だけの責任じゃない。

でも…

それでも…

やはりこんなふうに二人で表に出るべきではなかったのだろう…


いつもはお互いにもっと慎重なはずなのに…

離れたところだという油断から何を浮かれてしまったのだろう。

私は拒絶することもできず、あの人に背を向けたまま首を左右に振った。


自然と顔を上げて、エレベーターの数字が

どんどん右に移動していくのを目で追いかける。

なんとなく気持ち悪い感じをぬぐえないまま、

その小さな灯りを、ただ見つめ続けた…


それからあの人は部屋の中に私の躰を押し込み、ドアを閉める。

刺すような空気に押されて、とりあえず目に入ったベッドに

彷徨いながらたどり着き、腰掛けた。
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