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そのキスの代償は……
第8章 その夜
女が、さなぎを脱ぎしばらくその場で休んでから…

蝶のように羽ばたき飛び立っていく。


俺の腕の中で、徐々に…

時に急激に…

オンナに変化していく彼女。

手塩にかけているのは…

自分だという優越感と、でも結局四角い密室でしか、

触れることが許されない自分にイラつく。


いずれ羽化してしまえば、手の届かない空に飛び立ってしまうのだろうか?

俺はその時、彼女を冷静に見送れるだろうか?


「おはようございます」

ある日も、いつものように彼女はコーヒーをデスクまで持ってくる。

俺が転勤する以前からある、日常の何気ない光景。


俺はコーヒーを片手に持ち、今朝もメールチェックをした。

「相良君おはよう」

意識しているのを悟られたくなくて、いつものように

顔を画面に向けたまま挨拶だけを口にする。


その日の彼女は、いつもと違う…

夜の…

あの時の色香をそのままそこで放っているようで…

眉にしわが寄ったのに気が付き、自分の独占欲にはっとする。


そんな姿を…

ここでさらすんじゃない。

それなのに何も思わない彼女は

踵を返してこっちに背中を向け歩きはじめる。

そのまま給湯室に…

向かうのだろう。


しばらくして俺は、モヤモヤとイラつく気持ちを胸に、

デスクを立ってそのまま部屋を出た。
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