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そのキスの代償は……
第8章 その夜
いつもなら…

ここで行くのは喫煙ルーム。

でも、今俺の目の前のドアは同じ階の端にある小部屋で、

普通男の俺たちには用のない…

ほとんど誰も立ち入ることのないその部屋に、衝動的に押し入る。


後ろ手でそっとドアを閉じると、瞳に飛び込んできたのは

こちらに背を向けて、いそいそと動き回っている姿。


気配を消し近寄って、その両手をすっくと掴み、

後ろ手にし動きを封じてから自分の胸に収めようと

彼女の躰をこちらに引く。


捉えた掌に力を籠め、逃がさないように拘束しながら目を閉じる。

息をゆっくりと吐き出した頃、想定通りその躰が腕の中に飛び込んできた。

彼女の纏う薫りを肺いっぱいに吸い込む。


そこにあるのは…

甘ったるく欲情を持て余した、オンナ特有の淫靡な空気。


やっぱり…

こんなモノがダダ漏れのまま、これ以上外に出したくないと思った。

この空気は…

あまりにも危険すぎる。


「課長?」

躰中が吸い込んだ甘さに酔い、気怠くなったまま瞼をやっと持ち上げる。

胸の中から見上げるその視線に、躰がカッと熱を放ち反応しはじめる。

この薫りに、この瞳…

こんな場所でお前は無意識に俺を煽って、いったいどうしたいんだ?
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