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そのキスの代償は……
第9章 その躰
コンコンコンコン。

震える手でドアをノックした。

さっき部屋で内線を1コール鳴らした。

だから、眠ってさえいなければカギを開けてくれるはず…


それからいつものように一歩後ずさると、

しばらくしてガチャっという音がした。


ゴクッとつばを飲み込んでから…

目を閉じ、いつもの合図のノックが返ってくるのをじっと待つ。

静かな廊下に、自分の破裂しそうな鼓動だけが耳に木霊する。


いつまでたっても返りがないので、そっと目を開けると

そこには少しドアを開け、その隙間から顔を出すあの人の姿があった。


「ひな、おはよう…」

目が合うと挨拶をし微笑みかけられた。

いつもと違う状況に、頭がついていかない…

なぜノックが返ってこないの?どうして戸口に立つの?


昨夜のことがあったのに、この笑顔。

別れてから彼に何があったのかわからないが…

いつもと違うことが怖かった。


あまり微笑む人じゃないのに…

昨夜から頬が緩むことが多かった。

それはとても私を幸せな気分にしてくれたのだが…

それもあんなことが起こるまでのことで。

それでも微笑むあの人の真意がわからない。


もちろん戸口でこんなふうに、笑顔で迎えてくれるのも…

初めてだ。
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