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そのキスの代償は……
第9章 その躰
その姿は見慣れているはずなのに、戸口で微笑みながら立つ

あの人の様子に違和感を感じてしまう…


「どうぞ中へ」

「でも…」

躊躇する私に柔らかく微笑み、手を差し伸べた。

「取って喰おうってわけじゃないから。まずは話し合おう…」


怯えながら躰を引いたが、その見たこともないような柔らかい表情に…

押し切られてしまう。


負けを認めた私は、仕方なく部屋へ足を踏み入れた。

後ろから少し距離を取ってついていき、勧められたソファーに腰掛ける。

緊張で躰が強張る。


向かい側にあの人が優雅に座ると、私たちを隔てる黒のテーブルの中央に

1枚の白い紙が置かれていることに気が付く。


それから視線を上げ…

お互いに見つめあった。


柔らかな笑みが、どうして釈然としない。

あの人が話し合おうというから入った部屋なのに、結局…

彼は何も発しない。

長い間沈黙だけが二人の間に横たわった。


「昨日の今朝に、いったいなんの…」

言葉の途中で、白い紙を静かに渡された。

その紙を持つあの人の浮かべる満面の笑み。


得も言われぬ嫌な予感を拭えないまま、綺麗に折られた白い紙を開き、

整えられて並んでいる文字に目を落とす。
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