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そのキスの代償は……
第9章 その躰
それからあの人は俯いたまま、私の顔を見ることなく

ぽつぽつと話し始める。

聞かされたことに、私は…

絶句した。


あの後…

奥様は本当に連絡をしてきて、

この部屋に佐伯という先ほども連れていた男を伴ってきたらしい。

そして、この紙…

「契約書」を置いていったそうだ。


「愛人契約書」というタイトル。

金銭以外の一切の見返りを求めない。

それは…

心の…

情の繋がりを許さない残酷な契約。


斜め読みしてもわかる…

これは奥さんが用意するには余りにもあり得ないもの。

でもそれには妻としての彼女の権利と立場が

絶対的であると見せつけるような内容を記した紙切れだった。


「最後まで読んでサインしてくれ。契約するのがうちの奴の条件だ…」

全てが暴かれた今、奥様の影を感じながらあの人に抱かれる?

だから、別れさせず自分のテリトリに引きずり込むのか…

それは、私のプライドを粉々にするため?


そして、あの人はそれを当たり前のように受け入れている。

私が、金の為に色欲の亡者に成り下がっても平気なのか?

それを、奥様に誓えというのか?

私の、人としての感情を全て…

壊したいのか?そこまでして関係を続けないといけないのか?
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