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そのキスの代償は……
第9章 その躰
もう何を言ってもこの人には通じない…

そう思った私は、視線を合わせず立ち上り、あの人に背を向け、

ドアに向かって一目散に歩きはじめる。

もちろんあの人はすぐ後ろをついてくる気配がして振り向くと

追いすがるような大きな掌が伸びてきた…


向き直りその手から逃げ延びようと小走りになりながら、

目前にやってきたドアを勢いよく引き、隙間に躰をねじ込む。


半分出た所で…

左手を乱暴に握られ、躰が宙に浮くように無理やり引きずり戻される。

バタン。


あと少しだったのに…

そんなことを考える余裕もないまま、

あの人の両腕の中にドアを背に追い込まれてしまう。


逃げ場を失い、鼻先にはあの人の顔。

その表情は暗くて見えないが…

放つ空気はピリピリと痺れて、このままだと何をされるのか…

わからない恐怖心で躰が強張る。

両腕が肩の左右から背中に回ってかき抱かれたかと思うと、

唇を押し付け、強引に口をこじ開けられて、舌が口腔内を蹂躙する。


嫌。もうこういうのは…

イヤダ!!


あの人が唇をほんの少し離したその隙に、頭を左右に振り、

躰を捩ってもがきながら

「いやぁ…」

叫ぼうとして口を掌でふさがれた。
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