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そのキスの代償は……
第9章 その躰
「お前が果たしてどっちを選ぶのか…」

降ってきた言葉が意味が解らず戸惑っていると、

スローモーションの動きをみるように、

あの人の両掌が開かれたままゆっくりと頭上から落ちてきた。


何をされるかわからず、無理を承知で身を捩ってみても

やはり躰はびくともしない…


カーテンは引かれたままでも漏れた光でうっすらと白む部屋。

視線にはあの人の引き締まった逞しい躰のラインが

不気味に黒く浮かび上がる中、暗闇からぬっと伸びてくる白い掌。

それが口元で止まる気配に、もしや…

と思う間もなく10本の指が顎のあたりから

ゆっくり首元の輪郭をなぞるように喉まで降りてくる。


やっと遠のいた欲情を再び嘲笑うように、あのゾワゾワとする感覚が

指先で触れられた首元から全身に拡がっていき…

頭のてっぺんから、爪先まで伝わる痺れ。

それから下肢に欲望の雫がジュッと溢れるを感じた。


みたび目を閉じ、躰に拡がっていく望まない快感の揺らぎを、やり過ごす。

まだ小波のうちに抑え込まなければ…

一気に淫欲の大波が押し寄せて、その水面に身を投げてしまう。

さっき受けた快感が燻る火種になって、より燃え上がろうとする躰を

なんとか宥めなければと…

躍起になる。
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