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そのキスの代償は……
第11章 その朝
そんなことでも、その日限りの淫蕩に身を沈めても…

その瞬間に得られる快楽を追い求めて…

結局満たされることはなく…

昼間はそれなりの日常を送り、全てを誤魔化していた。


聡美と暮らしていた時は、ただその生活に息がつまりそうだったが、

家を出て分かったことは、突然何も告げずに捨てられたにもかかわらず、

俺の中にかおるがまだこんなにも溢れていて、

生き続けているているということだった。

かおると暮らしたあの優しく穏やかな時間さえなければ…

俺は手の中にあるもので満足できたのかもしれない。

でも俺は知ってしまった…

愛しいと思える女と出会い、その人との暮らしが

どれほど心と躰を満ち足りた世界に誘ってくれるのかということを…

そして、それを失うということは

他のどんなものであっても穴埋めすることは不可能だということを…


かおると同じ顔をしたひなが、俺に無言でそれを思い出させてくれた…

だからもう少しだけ…

あんな卑劣な契約に便乗してまで、もう少しだけ…

せめて次の異動の辞令が下り、この地を離れるまで

このガラス細工のような幸せをこの手の中に閉じ込めておきたかった。

もう少しだけ、例えそのひと時でも、

愛おしいと思える女と肌を合わせ、共に悦楽に浸る喜びを享受したかった…
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