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そのキスの代償は……
第14章 そのひと時
あの頃も考えないようにしていた…

あれからあの人の胸に飛び込んでからの日々も

深く考えないようにしていた…

そして、「ケイヤク」をしてからの事も…

極力考えない。


あの人に会うたびに増える白いワンポイントのお洒落な封筒に入ったお金。

帰り際にその封筒を見るたびに奥様の影がちらついた。

お互いに納得して交わるだけの関係を、

引き裂くように割り込む他人の醜い感情。

あの真っ赤な口元で高笑いしている姿がまぶたに浮かび、

「妻」と「情人」という違いを見せつけられているようで嫌だった。

あの人の気持ちが妻にないことは…

あの時の様子を見るだけでもわかる。

かといって私にあるかというと…

それはわからない。


そんなものを見せつけられたからと言って

その封筒を置いて帰るのはおかしいし、でも…

持って帰ってはみるもののどうしたらいいのかわからず…

そのまま部屋のデスクにある鍵のかかる引き出しの奥に

わざわざ用意した小さな空き箱へ押し込む。


それきり次の逢瀬までその引き出しは開けない…

以前は大切な書類とか、印鑑とか、保険証書をソコに入れておいたのだが…

そんなものと一緒にする気になれなくて…

部屋の入り口に小さなチェストを買って、カギのかかる引き出しに移した。
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