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そのキスの代償は……
第14章 そのひと時
「ええ…

ざっと目を通したところでは大丈夫そうですね。

ところで白石さん、実はちょっと…」


クライアントが書類を持ったまま立ち上がりあの人を手招きする。

そのまま二人はドアを出て行って…

バタンとドアが閉まり、私はその場に一人残された。


こうやってよく連れてきてもらって、そのやり取りを

実際に見ることができたのも参考になったっけ?

今の私の仕事のやり方は、

あの人にずいぶんと感化されているのかもしれない…

そんなことを思いながら、私は誰もいない応接室のソファーで

伸びをした。


改めて応接室の中をきょろきょろと眺める。

誰かがいるときはこんな失礼なことはできないから…

振り向くと、背中の壁に目の覚めるような

強烈な印象を受けるような絵画がかかっていた。


舞い降りてきた天使が女性に向かって何か告げたげな様子。

たぶん宗教画なのだろう。


目を細めてそのタイトルを見て…

それが世界的にも有名な絵画だと思い出した。

特にこういうものに興味があるわけではなかったけど、

たまたま若いころに行った美術館に本物があった。


ここにある絵よりははるかにサイズも大きく、

その美術館で見た時受けた衝撃はしばらくの間忘れられなかった。

女として生まれたらいつかこの身に新たな命を宿す時が来る。

その時も漠然とそう思ったっけ?
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