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そのキスの代償は……
第14章 そのひと時
でも、もう私にはそんな幸せなサプライズは起きない。

そんなこと…

邪魔にこそなっても喜んで迎えるような

そんな環境になることはまずないだろう…


女としての快楽はもっともっとと享受したいくせに、

その結果として女の躰に起こることのある

自然で神秘的な命の摂理を拒絶する自分。

でも現代はそれが許されているのだから…

私は欲しいモノだけが手に入ればいい。

リスクがないわけではないけど…

今はピルも飲んでいるし、おそらく大丈夫だと思う。


「失礼しました…」

あの人がクライアントに伴われて応接室に戻ってきた。

「いえ…」

私はとっさに見ていた絵から視線を外し、ドアの方に向き直る。

「あっ、その絵をご存知ですか?」

「ええ…

昔、本物を見る機会がありまして…」

「そうですかぁ。結構遠いですが行かれたんですか?

あの美術館は本当に世界の名画が多数所蔵してあって、

すばらしいですよねぇ」

「ええ…」

それからしばらくクライアントの絵画談義に付き合った。

絵画には本当に興味がないんだけど…

でもこれも仕事のうち。

こういう共通の話題で相手の緊張を解きほぐしておけば

色々とうまくいく…

今度はあの人が私の隣に座り、静かに微笑んでいた。
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