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そのキスの代償は……
第2章 その想い
ある日、バスルームのドアが突然開け放たれた。

まだ何も着ていなかった私は、夫と向き合い目が合ってしまう。

次の瞬間あわてて夫に背を向け、躰を両手で隠したが…


床の上では美奈がパジャマを着て無邪気にキャッキャと笑っていた。


「お前色気づいて、何か勘違いしてないか?

今更どうあがこうが、所詮曲がり角を何度も曲がったあばずれのくせに…」

風呂上りに、肌の手入れをしている私をわざわざバスルームまで来て

嘲笑い、それだけ言うとドアを閉めていった。

たったそれだけのことが…

それまで色々なことを積み重ねられた私にとっては許せなかった。


その時、夫に対する気持ちが一気に冷めきった。

それまでの違和感がすべて繋がる。

それでもこの人は娘たちの父親…

せめて親同士としてだけでもどうにかならないのだろうか?

私は祈るような気持ちだった。


その時向けられたの蔑むような瞳。

それがその後、凶暴な炎を宿す瞳に変わり、時に殴るようになる…

そして、ある日帰って来なくなった。


殴られる痛み以上に、いつ殴られるのかということに

怯えなければいけない時間が心底怖かった。

もしかしたら私の父も母を殴っていたのだろうか?

恐ろしくてそんなこと聞けないけど…

聞けないけど…

たぶんそれが父を追い出した理由だろうと思った。
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