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そのキスの代償は……
第1章 プロローグ
「本当にそれでいいんだな?」

うなずいたとたん強引に手を引かれ、躰を引きずり込まれる。

ドアを閉め、ガンと音を立ててそのドアに背中を押し付けられた。


囚われの身になった私…

間近で煙草とアルコールの匂いが鼻を突き、

お互いの視線が激しく絡み合う。

強く欲情した瞳。そんな男の目を何年ぶりに見たのだろう?

そして躰もすきまなく絡まり合った瞬間、あの人は激しく口づけた。


口腔内を蹂躙し掻き回す舌。

それに合わせるように、私も必死であの人に舌を絡めた。


その唇が躰のあちこちに触れ、乾いた大地に水が浸みわたるように

女としての細胞が一気に呼び覚まされる。


女としての悦びを知り、その結果私は2度も新しい命をこの身に宿し、

育み、産みだすことができた。

それはとても、とっても…

幸せなことだった。


でもそれから、私の環境は一変する。

女として顧みられなくなった日々。次々と降りかかる困難。


本当に長かった…

8年ぶりに交わされた口づけは、

私の中に押し込め、眠らせていたものを一気に覚醒させる。


そしてその晩、私ははじめてあの人のモノになった。

初めての時のような少しの痛みと共に…

でもそれは、躰の痛みだけでなく、届くことのない心の痛みだった。


そして、そのキスの代償は…

あまりにも、あまりにも大きかった。
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