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そのキスの代償は……
第4章 その事後
どんなにこの香りに未練があっても、

どんなにこの姿のままで、ここにいたいと思っても、

それでも、いつまでもここに留まるわけにはいかなくて、

仕方がなくかけものを剥ぎ取って躰を隠し、

ゆっくりとベッドから起き上がった。


痕が生々しく残った自分の躰には極力視線を落とさないようにしながら、

正面に見えるドアに向かってただまっすぐに歩いた。

分厚いカーテンの隙間から見えた射光が、

ますます強くなっているような気がした。

私はその光に背を向けベッドルームをそっと出た。


バスルームを探す為にあられもない姿のままで彷徨う。

これだけの時間、何に物音もなかったから、

もうあの人はいないのだろう…


TVの前にある小さなデスクの上に、お金と紙切れが置いてあった。

それがもういないことの合図だと言わんばかりに…


そこにあったのは『タクシー代』とだけ書かれたメモに1万円札。

それじゃあまりにも多すぎだろうけど…

おそらく面倒だったのだろう。

ホテルの支払いは済ませてあるのだろうか?

少し歩けば駅があるから電車で帰ってもいいのだろうけど…

こんな時まで、どこまで細やかな気遣いなんだろうと

苦笑するしかなかった。
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