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そのキスの代償は……
第5章 その心
「シャワーだけでも…」


3度目の逢瀬で、ドアを入った途端その手を握り、

引きずるように中に連れ込む俺に、

脅えた目を向ける彼女の懇願の言葉を事もなげに握りつぶし、

腕の中に閉じ込めてただむさぼるように首筋に噛みついた。


その肌の甘さにはっとして顔を上げると、その目に飛び込んできたのは

かおるが感じた時と同じ顔。

瞼を閉じて眉根を寄せ、唇を結ぶちょっと苦しそうな

あの何とも言えない表情…


この女といると今がいつなのか…

ここがどこなのか…

目の前の女がいったい誰なのかわからなくなる。


あんなに大切な女だったはずなのに、

いなくなってからも結局意地を張って探さなかった。

そんな愚かな自分をその度に思い出し、

込み上げてくる苦いものを無理やりに飲み下す。

それでも苦いものは腹の中で渦巻き続けて…


彼女をむさぼるたびに湧き上がるこの感覚はなんなんだろう?

もっともっと…

ただ手に入れたい、ホシイと衝動的に思い、

彼女の意思を無視して食い散らかすばかりの自分。


密室で会えば、こんな衝動的な野獣と成り下がる自分に戸惑う。

俺はこんなにも強欲で自分勝手で衝動的なのに…


それなのに、彼女は…

ほとんど何も求めてこない。
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