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そのキスの代償は……
第5章 その心
それは俺にとっては拒否権のない召集令状。

絶対に従わなければいけない命令…

どんな約束よりも、ある意味仕事よりも優先しなければならない

拘束力の強いおんな(妻)からの忌々しい帰宅を乞う便り。


普段は単身赴任で自由にさせてもらっている。色々な意味で…

しかし、ひとたび呼び出されれば、

例え夜中であっても帰らなければいけない。

これが俺とおんな(妻)が

スキルアップのために家を出た時の取り決めだった。


しばらくの間、遠い目をして暗闇を見つめる。

ため息も出ないくらい落胆したが、

俺のスケジュールはおそらく把握されているのだろう。

支払いも済ませていないので、いつまでもぐずぐずしてはいられない…

仕方がなく指で返事を入力をした。

『了解。今終わったから支払いが済んだらすぐそちらに向かう』

思うようにならない人生。

送信ボタンを押しながら、苦虫をつぶしたような気分になった。


彼女に帰りのタクシーでメールをするしかなかった。

『すまない。急用ができて行けない。

翌朝モーニングを頼んでおいたからそれを食べてから帰ってくれ。』


それから目を閉じ車に揺られながら返信を待ったが、

自宅に着いてもそれはなかった…


「お帰りなさい」

にこやかにドアを開け迎えるおんな(妻)の顔を見て、

改めて彼女が恋しくなった。
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