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そのキスの代償は……
第5章 その心
微笑むおんなの背には、これまた忌々しい男の姿…


「お疲れ様です。旦那様、お帰りなさいませ…」

こんな遅い時間でも、まだ居たのか…

その景色はここでは日常なのだろうが、

俺にとっては今でも信じがたいリアルだった。


ここがどういう異常な世界だったのか、嫌でも思い出す。

ここに住んでいた時、本当の意味での自由はなかった…


結婚して婿養子に入った俺は、

一人娘である妻の親義父(おやじ)様との同居は暗黙の了解だった。


最初の晩餐で親義父様から、以前自分たち夫婦が使っていた部屋を

リフォームしたので使うように言われ、

夫婦が隣同士の部屋をあてがわれた。

その2つの部屋には中にカギのない扉があって

廊下を通らなくてもお互い行き来ができるような構造になっていた…


しかし妻の部屋にはもう一つの扉がある。

妻のほうからだけカギをかけることのできる小部屋には

今後ろにいる忌々しい男、佐伯(さえき)がいつも控えていた。


佐伯は妻の子どもの頃からの世話係だった。

彼女よりは4歳年上で俺と同じ年の既婚者。

大人になって彼女が取締役の親義父様が勤める会社に就職し、

役員になった今は秘書として引き続き仕えている。

そしてプライベートでは、結婚出産した今でも妻の世話係だ。
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