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雨と殻
第3章 五月雨
◇1◇

 頭上すれすれをかすめ飛ぶ燕に、黒は殻を目深く引く。
 草に遊ぶ風の爽やかな、空が澄みわたる季節。
 不意の雨に誘われ、つい遠出をしてみたのだが。

(……早すぎたんだな)

 この春産み親と離れた黒は、初めて独りで迎える雨の季節を待ち、そわそわと落ち着けずにいる。
 殻ごしに感じた雨粒は、待ちかねた合図のように思えた。
 けれども時はまだ五月。露草は蕾、木々の葉もまだあどけない。
 歩いている他の個体など、まったく見かけない。

(隠れ場所を、探し直さないと)

 広く低く枝を張った、葉の多い樹を求めて、黒は歩いた。
 やがて見つけた樹の根方には、くすんだ乳色の殻が座り込んでいた。

(寝て、いるよな。起こすのも悪いな)

 他を探そうと横を向きかけたとき、樹の下の殻が動いた。

「……おや、随分な、せっかちさんだね。よければ、ここへお入りよ」

 その個体の招く声は、黒がこれまで聞いた中で、一番ゆるやかなものだった。
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