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雨と殻
第2章 天気雨
◇1◇

初夏の真昼、澄んだ陽射しの中、その幼い子はまどろんでいた。
露草の葉陰で、葉を透かした淡い日光が、子の体を照らしている。

琥珀色の肌に、焦茶と飴色の混ざる殻。

何かの音に、子はゆるゆるとまぶたを開ける。

幼さに似合わない妖しい瞳は、夜空より黒い。

子は周りを眺めて、驚いて瞬いた。

明るい日光の中で、雨が降っていた。


「……晴れてるのに、雨、降ってる」
つぶやくと、ますます不思議な気がした。
きょとんとする子の傍で、笑い声があがる。
「こういう雨は、初めて見るっけ?」
「うん」
うなづく子を、笑いながら抱きあげる腕は、象牙色。
「これは天気雨。雨雲が小さくて、空を隠しきれないけど、雨を降らせてる」
「てんき、あめ……」
「お天気だし、雨。どっちでもある、ってこと」
子は、首をかしげる。
「どっちでも、ない、んじゃなくて?」
「ある、のほうが楽しくはない?」
「……」

考えこむ子の頭を、象牙色の手が優しく撫でる。
「おまえは考えがちで、真面目な子だね」
「……悪い子?」
「いいや、良い子だよ」
腕が、ぎゅっと子を抱きしめる。
「私の大事な、可愛い子だよ……黒」



琥珀色の肌は木肌や土になじむ。
象牙色は石や砂になじむ。
幼い黒の産み親は、土の上を選んで歩いた。
自分の危険より、黒の安全を選んでいた。

それに気付いたとき、黒は、抱っこをせがむのをやめた。

「……まったく、賢い子だよ、おまえは」
少し寂しそうに笑って、産み親は言う。
石畳を歩く産み親の横で、自分は土の上を歩きながら、黒は言う。
「悪い子?」
「良い子すぎて、張り合いが無い」
「……」
「あ~あ~、悩まない悩まない」
象牙色の腕が、黒の小さな肩を抱き寄せる。
「悪いとか良いとか、いいよ。大好きな子だよ」
腕は、頼もしくも、柔らかだった。

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