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雨と殻
第2章 天気雨
◇2◇

幼い黒はやがて、自分のことを名前ではなく「私」と呼ぶことを覚えた。

それを待って、産み親は「親子」の話をした。

「黒。私はおまえの"産み親"だ。そしておまえにはもうひとり、"種親"という親がいる」
「たね親?」
「そう、種親。両の親がそろって、子が産まれる」
「……ふたりで産んだの?」
そんなはずはない、と知りながら黒は問う。
あの日、柔らかい殻ごと自分を抱き上げたのは、目の前の象牙色の腕だけだ。

産み親は優しく言う。
「最初はふたりで、途中からはひとりでするんだ」
「……最後は、種親は、どこにいるの?」
「お~……最後、か」
産み親は思わず唸る。
我が子ながら、時折投げてくる重い単語や深い質問には、不意を突かれる。
「……親それぞれに、よるよ」
「それぞれ?」
「そう。最後まで産み親と一緒にいる種親もいるし、最初だけ過ごしてよそへ去る種親もいる」
「……わたしの、種親は?」
「おまえが孵るぎりぎりまで、一緒だった。そのあとは、会っていないんだ」
産み親は、少し遠くを見つめて言った。
それは黒が初めて見る表情だった。
寂しい、という感情の存在を、黒は学んだ。



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