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一夜草~ひとよぐさ~【華鏡(はなかがみ)】
第36章 春雪
 頼嗣の眼に涙が滲んだ。
「何ゆえだ、どうして、そなたを妾になどせねばならぬ。私が欲しいのも抱きたいのも、生涯を共にしたいのも千草、そなただけぞ。それほとまでに愛しいと思う女を側女にせよと、そなた自身の口から私に言うのか」
 千草もまた溢れる涙を堪えた。頼嗣は判っていない。誰が好んで側室になりたいと望むだろう? 女は誰でも好きな男には自分だけを見つめていて欲しい。
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