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一夜草~ひとよぐさ~【華鏡(はなかがみ)】
第11章 見知らぬ花婿
子どもの頃から慣れ親しんだ海鳴りは、千種にとっては身近なものだ。普段は耳にするとかえって、ざわめく心も落ち着くほどなのに、今日に限って妙なこともあるものだ。
彼はしばらく海鳴りの音を聞いていたかと思うと、突如として静寂を破った。
「そなたは、どこの家の娘か? いずれ名のある武門の姫と見たが」
「私は」
千種は言いかけて口を引き結んだ。素性が明かせるはずもない。将軍の妻だなどとは口が裂けても言えなかった。