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一夜草~ひとよぐさ~【華鏡(はなかがみ)】
第11章 見知らぬ花婿
 今なら、そう今なら、自分の真の名を告げても構いはしないだろう。だって、これは幸せな夢の中の出来事で、この夢はいつか醒めるときが、終わりが来るのだから。
 千種は息を吸い込んだ。濃厚な潮の香りを胸一杯に吸い込む。
「千種と申します」
「―千種」
 彼は千種、千種と幾度も呟いた。何故なのか、大好きな男が自分の本当の名前を囁くだけで、こんなにも嬉しい。涙が溢れくるくらい幸せだ。
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